FRP Chair/ファイバーグラスチェアを扱う訳

なぜ、当店がFRPチェアを、それもヴィンテージだけを取り扱うのか。
 
901 Washington Boulevard,Venice,California
その住所から901(ナインオーワン)と呼ばれた、Charles and Ray Eames(チャールズ&レイ・イームズ)の事務所で、1948年に生まれたのが、FRP Chair(ファイバーグラス・チェア)である。
901でMoMA(ニューヨーク近代美術館)が開催した「ローコスト家具コンペ」に向けて試作されたArm Shell Chair(アームシェルチェア)とSide Shell Chair(サイドシェルチェア)は、その開発当初からローコストでクオリティの高い量産家具を目指し、FRP(ファイバーグラス)をプレス成型して製造された背座一体のシェル型のチェアである。
 
FRPは、アメリカ軍が第2次世界大戦中にヘルメット等の軍用に開発したガラス繊維で補強した新しいプラスチック素材であり、軽くて丈夫なうえにローコストであった。イームズは、それをあえてガラス繊維のテクスチャーをそのまま残し、素材の特徴を目と触感で直接体験するようにデザインした。
そしてそのシェルチェアは、FRPで戦闘機のレーダードームを製造していたジーニス・プラスチック社により製品化され、1950年頃からハーマンミラー社により、FRPむき出しや布張り、さまざまな脚と色のバリエーションなど大量生産されることとなった。
それは、当時、第二次世界大戦からの帰還兵を中心に、安価でそしてセンスがよく耐久性が高い家具として、家庭ではもちろん、公共施設や企業など業務用として普及した。
 
つまり、イームズのシェルチェアはそもそも大量生産・大量販売を想定した工業製品であり、北欧家具のように職人が手作業で作る家具とはまったく異なるのである。
しかし、そのシンプルで飽きの来ないフォルム、軽いのに耐久性があり、クッションが無いのに身体に柔らかく馴染む機能性などにより、それは使用する場所を問わない、極めてベーシックでありながら、存在感のある製品となっている。
 
 
商業デザイナーは、絵描きのように作品をつくらない。
クライアントのビジネスを成功させることを目的に、デザインするだけである。
それは複製されることを前提に作成され、それは決められたスケジュールと予算を前提に制作される。
それでも、そのデザインは時に本来の目的を超えて愛されることがある。
 
そう、イームズのシェルチェアのように。
 
量産する目的で素材に選ばれたファバーグラスは、年月を経るたびに、その質感が深まる。
もちろんそれは年月に応じて、欠けや擦れといった傷を伴うのだけれど、それですらその価値を高める。
それでいて、座り心地はもちろんそれが作られたときと同じように、そこに座るものを包み込む。
そして、シンプルなフォルムは決して古びない。
手に入れた者は、それをオリジナルのまま、あるいはベースを変え、ファブリックを張り替え、グライズやショックマウントなどを修理しながら、それを椅子として使う。
 
そんな生活を楽しんで欲しいから。
当店は、イームズ夫妻が素材として選んだファイバーグラス、デザインしたシェル型のチェアにこだわって品揃えしています。
 
ただの工業製品として製造された60年以上も前の椅子しか置いていない店ですが、是非、ご来店をお待ちしています。
 
【 2015/07/09 トチギマーケット 】